塾には「定期テスト対策」というものが存在します。
通っていた塾にこういったものがあった経験のある先生はいると思います。
定期テスト対策とは、学校の定期テストの範囲を通常授業とは別の授業として生徒に提供しているサービスです。内申点が受験に大きく影響する都道府県では積極的に行われています。
【悪しき伝統】定期テスト対策を4ヶ月かけて廃止したら入塾が2倍増えて、退塾が5分の1になった話【無料のテスト対策】
このブログ内において、定期テスト対策という言葉は「勤務時間外の定期テスト対策」を指します。勤務時間内の定期テスト対策は含みません。
この定期テスト対策には各塾で程度の差はあれど、塾講師の過酷な労働問題を抱えています。
例として、
・勤務時間外の日曜日や土曜日の午前中に行われる
・テスト当日の朝、授業がある
・テスト対策をやらない選択肢が基本的にはない
これらに共通する大きな問題点は、
「規定の労働時間に含まれていないものが多く、サービス出勤及び残業になっている」
「勤務時間内で定期テストを終えて、結果を出す仕組みを作らない」
上記の2点であると考えています。
私が責任者をやっていた教室は確かに大学受験科の教室でしたので、中学生ほどのテスト対策は不要であることは事実です。
しかし私の担当校舎以外では大学受験科の教室でも勤務時間外のテスト対策が平然と行われていました。
私がこの悪しき伝統であるテスト対策を完全に廃止した理由と、その後の入塾が増えて退塾が減った教室運営について話したいと思います。
はっきり言うと労働時間外に行う定期テスト対策は「無駄」です。
塾講師が頭を働かせて有効な手段を使えば、勤務時間内に定期テスト対策を十分に行い、家庭での学習を指導し、生徒に結果を出させることは可能だからです。
ではなぜ、そんな勤務時間外に定期テスト対策をすることが横行しているのか、誰も言わない理由を3つ、声を大にして言います。
①普段の塾への不満を、定期テスト対策で帳尻合わせしている
②日曜日や朝にテスト対策を行った事実により、結果が出なくても生徒の自己責任であると主張できる
③勤務時間内で生徒に点数を取らせる仕組みを作らない、作っても上司が保身からその案に賛成しない
状況の解説をしていきます。
①普段の塾への不満を、定期テスト対策で帳尻合わせしている
評判のよくない教室がやりがちなことです。普段の授業や塾講師の対応に問題があり、生徒の退塾が増えていたり、入塾者が減っている教室は、過剰なまでのテスト対策を行う傾向があります。お金をもらっている通常授業や普段の対応を疎かにして、親が抱いている不満をテスト前に頑張ることで帳尻合わせしようとします。こういった教室は大抵、日曜日の朝から晩までテスト対策をしているから手に負えません。
②日曜日や朝にテスト対策を行った事実により、結果が出なくても生徒の自己責任であると主張できる
塾として生徒に精一杯のサービス提供することは必要です。ただし勤務時間内で行えば本来は十分なのです。それを勤務時間外に行うことで、結果が出なかったときの責任の所在を生徒本人にしようとしている事実は否めません。純粋な気持ちで生徒のためと思っても、親から「先生は一生懸命やってくれたのに、うちの子供がバカだから」なんて言われると、内心「次回のテストまでは退塾はないな」なんて考えるものです。純粋な気持ちだろうが何だろうが、「あとは生徒次第」と暗に言っているのと同じです。私はこれを「リスクマネジメントの悪用」と呼んでいます。
③勤務時間内で生徒に点数を取らせる仕組みを作らない、作っても上司が保身からその案に賛成しない
塾講師は優秀な人材も多いです。生産性を考えている人も大勢います。普段から生徒の勉強の管理やモチベーションアップによりテスト対策をしなくても、ある程度本人に任せても結果を出せる状況を作り上げられている教室もあります。そういった基本的なことができていない教室は論外として、できている教室でもテスト対策を廃止もしくはかなり減らそうものなら上司から「結果が出なかったときはわかってるよな?」なんていうパワハラすれすれの脅迫を受けます。それに屈してしまい、結局は上司が納得するレベルの定期テスト対策を実施せざるを得ません。これも結局、責任の所在を生徒に押し付けられるところまでリスクマネジメントをしろと言っているのと同じですから、本質的には②と同じです。
このような状況において、テスト対策をいきなり完全廃止にすることは困難です。しかし私は実際に4ヶ月のスパンをかけて勤務時間外のテスト対策は全廃止しています。(※勤務時間内にテスト対策を行うことはあります)
それでも生徒は増え、退塾も減っています。その方法論を書いていきます。
①インプットの質を引き上げる
②アウトプットは家でやらせる
③過剰サービスを要求する親を退塾させられるのも塾の特権
①インプットの質を引き上げる
ごく当たり前すぎることを言いますが、普段の授業の質が低いと生徒が習ったことを覚えていないどころか「習ったかどうかも覚えていない(習ったとは思うが全く覚えてない)」というインプットした情報が完全に削除されている状況を引き起こします。あなたの授業は完全に時間の無駄と化します。そんな状況からテスト対策をしようとするから、勤務時間外に大量の時間を割いて教えなければならないのです。
2ヶ月前に教えたことを詳細に覚えているのは無理ですが、テスト前に内容を軽く話せば「ああ!あの時の授業で習った!」と生徒がインプットした事実を思い出せるのが理想です。何ヵ月後でも授業の大枠は記憶に残っているインパクトある授業を毎日行ってください。そうすればテスト前でも大枠はインプットはしていますから、勉強のやり直しに時間はかかりません。インプットは塾の最大の仕事です。
②アウトプットは家でやらせる
どれだけ生徒がインプットできてもアウトプットしなければ点数は伸びません。そしてアウトプットの作業は本来生徒ひとりでできます。インプットできているのに再度テスト対策を組んでインプットさせるなど、無駄です。そして、生徒にもインプットまでは全力を尽くすが、アウトプットは本来ひとりでやるものだと言い聞かせましょう。そうすれば日曜日に塾を開けてくれなんて言わず、おとなしく家でアウトプットを始めます。テスト前にアウトプットをやれば良いラインまで来ていれば、塾の行き帰りの時間ももったいないと生徒に言われます。ここまでこれば本物です。
③過剰サービスを要求されたら退塾させられるのも塾の特権
「顧客のニーズにはなるべく応えていく」
これは塾講師が会社員である以上避けられません。しかしやるべきことをやっているのにも関わらず、過剰な要求をする親は退塾させましょう。塾講師も人間です。自分の生活を脅かす顧客など顧客ではありません。どの塾も退塾ノルマは0%ではないはずです。ですから止むを得ない退塾は止めるべきではありません。過去、私が遭遇した過剰要求の親の発言として、
「うちの子が勉強したいと言っているから日曜日に朝から私の仕事が終わるまで塾を開けてくれ」
「通常授業を受けないから、その分の授業料でマンツーマンで指導して」
「女の先生いるでしょ?休みの日にデートなんかしてないでうちの子みなさいよ。こっちは人生かかってるのよ?」
こういうのは退塾させましょう。学校の先生はこういう親にも付き合わなきゃいけないから辛いですが、塾は公共サービスではありませんので方針に納得いただけないのなら付き合うべきではありません。
ただし、あなたと生徒の間に信頼関係があれば、親のクレームというのは基本的になくなります。こう言ったことを要求される時点で、生徒との信頼関係が不足していることもまた受け止めるべきです。「自分の子供が信頼している先生に嫌われることなんてできない」と思わせれば、過剰要求やクレームは限りなくゼロへ近づきます。
定期テストを廃止するために、
通常授業(インプット)の質の向上と、アウトプットは家でやるように指導した結果、
生徒との信頼関係は向上し、結果も出したので、過剰サービスはなくなった
その結果、評判は良くなり生徒は増え、退塾も減った
在籍数アップの結果を出してから、勤務時間外のテスト対策はやらないと上司へ宣言し、勤務時間内で結果を出すことを約束した
上司は納得せざるを得なかった
これが私が4ヶ月かけて行った、定期テスト対策廃止への全過程です。
何度も言いますが、このブログ内において定期テスト対策とは「勤務時間外の定期テスト対策」を意味しています。勤務時間内の定期テスト対策は質高くきちんと行いましょう。
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参考文献