先生になったのはいいものの、過酷な労働環境や、人間関係のトラブルを筆頭に、他にも様々な要因から「転職」を考える先生は少なくない。
また教育業界は「非常勤講師」でも十分食っていけるがゆえに、正社員にこだわらない働き方も存在するのは皆さんもよくご存知かと思われる。
そんな先生たちは転職の際に「もう教育業界はこりごり」と誓って転職活動をするのだが、なかなか他業界への転職を成功させる先生は少ない。結局、労働環境が良くなっただけでまた教育業界へ転職したり、教育業界の他職種への転職が多く見受けられる。
塾講師から他業界へ転職経験があり、その転職先で転職エージェントとして働いていた私の持論ですが、なぜ先生は他業界への転職が難しいのかその理由と、打開策を最後に見ていきたいと思います。
先生が他業界へ転職し辛い主な要因、それは仕事の進め方が「対面至上主義」だからである。
【対面至上主義とは】
仕事をする際に人と顔を合わせる「対面」であることに異常なこだわりを見せ、対面に持ち込めばなんでもできると思っている「非論理的」かつ「感情」を前面に使った仕事の進め方
(※宿題をやらない生徒に、宿題ができるような環境や仕組みを考えたりせず、宿題をやらない理由を問い詰めたり、みんなやってるからあなたも頑張ろうと励ますことで、宿題をやらせようとする行為がこれに当たります。)
本題にしたいのは、対面至上主義によって先生に「論理が失われている結果、転職活動がうまくいかない」ことですので、ご了承ください。
先生という職業は生徒に「非論理的」なことを、「感情」で押し付ける傾向が強い。例えば授業中の飲食禁止なんてはっきり言って異常である。
授業中に匂いを発するものや音を立てる食べ物は周りの生徒に迷惑だから禁止するのはわかる。しかし「飲み物禁止」は行き過ぎである。
喉が乾いたら授業に集中できない上に、夏であれば冷房が効いていても熱中症、冬であれば暖房による喉の乾燥で風邪を引き起こす体調不良のリスクがある。体調管理は人間の活動において最も優先される事項のはずであるが、「授業中に飲食はマナー違反」という謎理論を押し付けられ、授業が終わるまで我慢という慣習がある。
マナー違反という先生の本音は「授業に集中していないから腹が立つ」であることも多い。
私は塾講師の時に私の授業においては、以下を許可していた。
・匂いと音の出ない食べ物を食べること(飴やチョコなど)
・水、お茶、ジュースを飲むこと(炭酸はぶちまけた生徒がいたので以降禁止した)
・またそれらの飲食物を机の上に置き、堂々と食べること
生徒からは大好評だった。
生徒は「喉が乾いたら集中できない」「腹が減ったら勉強どころじゃない」と、よく他の先生への不満を私に言っていた。私は「その通り。だから僕の授業では自由にすれば良いけど、他人に迷惑かけそうな食べ物は自粛して。その判断は自分でできるでしょ。」とよく言っていた。生徒は飲食自由のルールを悪用することもなく、各自の判断で好きに飲食していた。
そして私の目の前での飲食を許可しているのだから、隠れてこそこそ食べたりするようなこともない。
生徒に大好評だった授業中の飲食だが、一部の先生は「マナーが悪い」と言って論理的に禁止の理由を説明しない。生徒の「喉が乾いたら集中できない」という論理は合っている。先生も仕事中に喉が乾いたら集中できない。なのにも関わらず、成績を付ける側と付けられる側という上下関係を利用して、一方的に否定する。
こういった小さな事例から、先生には仕事を進める上で必要な論理性が備わっていないことを、企業の人事部は書類や面接での受け答えで見抜いている。
塾講師だった頃、教室と生徒間の連絡方法が電話しかないことに違和感を持っていた。
ラインやツイッターの導入を提案したことがある。
ラインやツイッターがあれば生徒から「今日休みます」と連絡を入れれば良いわけだし、教室からも「講師の急な体調不良により休講」など生徒に一括で送信できる。こっちの方がどう考えても便利である。しかしこの提案は却下された。その理由が2つ上司から説明があった。
「ラインやツイッターで休めるようになるとズル休みをする生徒が増える」
「ラインやツイッターがあると生徒に良からぬことをする先生が現れる」
だった。はっきり言って論理性の欠片もない説明である。
そもそも電話でもズル休みは防げない。辛そうな声くらい誰でも出せる。そしてズル休みされるような魅力のない先生の授業の方がよっぽど問題がある。
また、ラインやツイッターがなくても良からぬことをするやつはいる。対策として会社パソコンでのみ操作でき、また監視機能をつければ良からぬことはかなり防げるように思う。
「会社としてラインやツイッターを導入すると、便利になることによるリターンよりもコストがかかりすぎるので、現時点では導入できないが、将来的に検討する。」ならまだ納得できたかもしれない。
世の中の多くの仕事は「論理的に正しいかどうか」を軸に行っている。転職先でその現実を痛いほど思い知った。
私のいた転職エージェントも仕事内容の論理性の追求をとことん行っていた。また、論理的に合っていても実行出来なければ意味がないという考えが浸透しており、具体的にどう実行するかも活発に議論されていた。
実行プランはさておいて、この「論理的に正しく」が抜け落ちている環境、それが残念ながら教育現場なのである。
その中に1年もいればあっという間に論理で仕事をする習慣はなくなってしまう。3年もいたらどっぷり浸かってしまい、論理のない環境から抜け出せない。先生の価値観による直感の仕事になり、「なんとなく良さそうだから」「なんとなくダメそうだから」という仕事の仕方に慣れてしまう。
なぜこれをしようと思ったのですか?との面接の質問にも、他業界が求めているレベルの論理性を持って答えられない。当然、面接で答えられないのだから「当社で仕事ができるレベルに達していない」ということになり、仮に書類をどんなに書き上げても面接で不採用となってしまうのである。
【対策】
ここからは、教育業界に就職してしまったが、どうしても他業界へ転職したい人向けの対策になる。また同じ教育業界であっても転職の際には役に立つと思われる。論理性を磨きたい人にもお勧めできる。
①理由を最低でも3つくらいは遡って考える
簡単なものから。
今ご飯を食べた理由はなんですか?と聞かれたら、「お腹が空いたから」なのだが、なぜお腹が空いたのかも説明できるようにしたい。これを3つ遡るとこんな感じになる。
①今日は繁忙期で早く出勤する必要があり朝ごはんをいつもより早めに食べた結果、②食事をしていない時間が長くなったので、③お腹がいつもより空いているから、今ご飯を食べました。
実例
面接官「生徒数を増やすために、行ったことはなんですか?」
ダメな回答「生徒とのコミュニケーションを増やしました。」
模範回答「①講習時に生徒を増やすために必要なことは広告による宣伝と、生徒が友達を紹介してくれる大きく2点があります。その中で広告による宣伝は会社の費用の大きさや運も左右しますが、生徒からの紹介は先生の実力が大きく影響します。②人は好きなものを紹介するものですので、紹介をしてもらうには私を好きになってもらわなくてはなりません。そこで私はパソコン作業の時間を減らし、生徒とコミュニケーションをとる時間を毎日1時間増やしました。③その結果、会話が増えたことで生徒と深い会話ができるようになりました。すると会話の中で違和感なく生徒の友達の話になり、その友達を塾に誘ってもらえるようになったことで、生徒数の増加をもたらしました。」
②問題の根源はどこなのか把握する
授業中の飲食に対し、「腹が立つから」という否定は感情でしかないから論外。
また、「生徒の集中力が下がるから」という主張は一見論理的に見えるが、私から言わせると的を得ていない。生徒の集中力が下がるのはあなたの授業がつまらないからで、食べ物のせいではない。このような自分に取って都合の良い論理を主張しても、最終面接で出てくる優秀な面接官には「理由が薄っぺらい」と思われて、激しい突っ込んだ質問をされてうまく答えられずに不採用になる。もしくは不採用と決めて適当に面接を進めるだけになる。
普段から問題の根源はどこなのか考えて、その問題解決に取り掛かろう。また立場上、取りかかれない場合はできそうなことからやってみよう。
③自分の価値観と真逆のこと、世間の常識と真逆のことをいったん正当化して考える癖をつける(どちらが正しいかはそのあと考える)
自分の価値観だけで生きる、世間の常識を正しいと思い込んでいる人のことを、「視野が狭い」という。仮にそれが正しかったとしても、時代を追うごとに正しいことは変化する。時代に取り残された古い考えを持っている人を「老害」と呼ぶ。だから若くても老害化する人間はいる。視野が狭い人や老害を採用するはずがない。こういった固まった考え方を防ぐには、いったん真逆のことを正当化して考えてみることだ。頭の中で考えるだけなら誰にもその思想は伝わらない。不謹慎なことでも考えてみることだ。
例えば、先生は子供の教育上学校は必要だと思っている。しかしあえてそこを「子供の教育に学校は不要」と考えてみるのも面白い。そしてその「学校不要論」を裏付けるデータや考え方は調べて参考にするのも良い。その上で、やっぱり学校は必要と再認識するのと、「学校は必要に決まっている!」とそれだけを主張するだけの人間では、思考の幅が違いすぎる。
世間ではセンター試験不要論があるし、塾講師にも二次試験だけで良くないかと思っている人は多い。あんな実質4択だけの思考力もクソもない試験いらないと思っている人はいる。その中でセンター試験が必要であると言い切れる理由を調べ、考えてみよう。その上で、センター試験は必要不要に関してはどちらを選択しようが問題ない。
(センター試験は文部科学省に入った官僚の花形の仕事であったから、長らくあの形態を維持してきた背景がある)
まとめ
教育業界は論理が欠けていてもできてしまう仕事が多すぎる(特に対生徒)
それがゆえに論理よりも、感情で人を動かしたり主張を通す機会が増える
論理的な思考は使わないと比較的短期間で崩壊する
他業界の仕事は論理で進めることがほとんどである
面接でその論理を試されるのは必然である
論理性を磨いていけば、他業界でも面接は通る
参考文献