クレームは実は簡単に処理できる。
教室のスタッフが顔面蒼白で私に子機を持ってきて、
「◯◯さんのお母さんから、◯◯の件でクレームが入っています」
と、だいたい2〜3ヶ月に1回くらいのペースでクレームはきていた。
これでもクレームは相当少ない方ではないだろうか?
どんなに環境を整備してもクレームは発生する。
それは仕方ない。言葉の捉え方は人間によって違うこともあるし、先生だってミスをする。
ただ、先生の一方的な原因によって発生したクレームに関しては、正直に誠心誠意謝ろう。
メンツを気にしていては先生としての資格がない。
ミスによるクレームにはきちんと謝る。これは当たり前だ。
私も塾講師の時にこちらに一方的なミスで保護者に謝ったことがある。
印鑑も押してある書類を間違えてシュレッダーに入れてしてしまった。
それが発覚した際にはすぐに保護者へ電話し、
「先日いただいた申込書を私の手違いでたった今シュレッダーにかけてしまいました。
授業後にご本人様から書類を確かに受け取りましたが、質問対応をしていたため、自分のデスクに置いたのですが、その後授業で使ったプリントを書類の上に置いてしまい、一緒にシュレッダーにかけてしまいました。
本来であればご自宅にお伺いして説明すべきことではございますが、先にお電話で要件と謝罪をしたく、お忙しいとは存じますが早急にお電話させていただいた次第です。大変申し訳ございません。私がご自宅まで伺いますので、もう一度ご記入いただけないでしょうか。」
と謝った。
もちろん怒られれば自宅まで行く覚悟だった。
そもそもクレーム処理は、
「誠意」と「スピード」が命だ。
どのクレーム処理について書いてある本にも載っている。
ただこの時は保護者の方にはこの対応を理解いただき、
「そんなことでわざわざお電話いただいてこちらこそ申し訳ないです。子供にもう一度書類を渡していただければ、また書いて持たせますので、それで結構ですよ。」
と、言っていただきことなきを得た。
ただクレームはこういったどちらかが一方的に悪いなんてことはあまり起こらない。
クレームで最も多いのは「双方の主張がどちらも一理ある」場合である。
今回の本題は理不尽なクレームの処理である。
その方法は、
「共感をしつつ、仮想敵を作る」
これを使ったクレーム処理を説明をしていきたいと思う。
どんなクレームも大抵は双方の言い分にそれなりに合理性がある。
契約書類には塾側に有利なことが書いてあったとしても、社会通念的に、
「それはどうなのよ・・・」ということもあったりする。
例えば、
退塾の申請は月末までと書いてあるが、
翌月から生徒が一方的に来なくなり、
退塾の書類がないけど、通塾もしてないとしたら、
塾側:契約上退塾になっていないから授業料を請求する
保護者側:1回も通っていないのに授業料を払うなんておかしい
となって、大揉めになっているシーンをよく目撃したことがある。
塾の先生あるあるだったりするが、契約上は塾が正しい。
しかし契約だけで問題は解決しないから難しい。
使っていないものに料金を払うというのは納得いかないという保護者側の言い分もわからなくはない。
よって、
「双方の言い分にそれなりに合理的な主張がある」
とはこういったケースを指す。
こういった場合は、処理のための軸を2点押さえよう。
①個人の立場で相手の言い分に共感する
②仮想敵を作る
①個人の立場で相手の言い分に共感する
そもそも先生だって、
「1回も使っていないものに料金を請求されたら率直にどんな気持ちになるか」を考えてほしい。
NHKを見ていないのに、テレビがあるだけで受信料を請求される。払うのがルールなのはわかるが、不満は残っているはずだ。
だから保護者の言い分も言いたいことはわかるはずである。
なので共感はまずしておこう。
ただしポイントはあくまでも個人として。
「私個人として、お母さんの言っていることは大変よくわかります。授業に1回も通っていないわけですから、授業料を請求されるのは納得いかないと思います。私が同じ立場であれば、同じことを言うと思います。」
これくらいの共感はして良い。
じっくりと共感に時間をかけ、相手の言い分は全部聞こう。
ただし、ここからが重要。
仮想敵が必要なのである。
会話はあくまでも参考例である。
「お母さんの仰ったことは私もよくわかりました。お母さんの方が正しいとさえ私は思っています。ただ、私はここの会社の社員ですので、会社のスタンスと契約内容を請求するしかないのです。」
さらに追加で、
「私も常々実は会社にお母さんと同じことを言っています。そもそも退塾は月末までに言うなんていう仕組みがわかりにくいから、退塾の申請があった日から逆算して日数分の授業料を返す契約にしろと言ってはいるのですが、なかなかこの案は通らないです。」
「だからこうやってご迷惑をおかけしているわけですし、申し訳ないです。」
参考例だが、保護者が自分に対して不満を言っている理由の矛先を、
自分から、「会社」へと変えるだけでもクレームは効果がある。
塾はこれが使いやすい。
「再度、私から会社へ提言してみますので、少しお時間いただけますか」
と言って一旦電話を切るのも手だ。
クレームはヒートアップするとろくなことがない。
その後再度電話して、
「すみませんお母さん。私もお母さんの意見の方が正しいと思いますし、そう会社には報告させていただいたのですが、全ては入塾時の書類に沿って対応するとやはり言われてしまいました。私の力不足ですみません。」
これくらい言えるとそのころには親は、
「どうにもできないことを自分を理解してくれる先生に無理言って面倒かけてしまったな。」
と思い始める。
これで向こうが塾側の言い分を飲んでくれれば良い。
というか、クレーム処理は3年で20件くらいやっているがこの対応で処理しきれなかったのは1件だけだった。(その1件だけは強烈に今でも覚えている)
あとは丸く収まって、その後の生徒の通塾にも影響は出ていなかった。
私としてはクレーム処理成功率95%の手法を紹介したつもりである。
そして今でもよく覚えているが、
「先生に無理言ってごめんなさい。会社にまで言ってくれる方、初めて出会いました。でも先生ってお若いんでしょう?どうしてそんなお若いのに、ここまで対応していただけたの?本当感心しちゃって。」
と言われたことがある。
その後、その親からクレームが入ることはなく、
勉強のことで相談をもらったり、子供が授業を楽しみにして通っていると伝えてくれたりと、関係性は飛躍的に向上し、あのお母さんは私のファンになったと思っている。
仮想敵を作ることの目的、それは、
「保護者自身と先生自身は子供のことに関しては絶対的な味方」
という意識を、双方が持つことである。
味方と思ってくれれば、その瞬間からそのクレーマーは先生のファンへと昇格する。
私自身は、これで揉めやすいクレームは大抵処理できてきた。
ただ、クレーム処理がうまくなるよりも、クレームが出ない環境作りを最優先させるべきであることに変わりはない。